大乗(2015年1月号) みほとけとともに掲載分①
本願寺出版社さまから刊行されている「大乗」に寄稿させていただきました。
凍蝶の庭(いてちょうのにわ)
愛知県の暑い夏も過ぎ、過ごし易い秋も去り、布教所を開所して初めて迎える冬はどのようなものであろうかと、首を竦める日々を過ごしております。
布教所の運営を考えれば倹約を心掛けなければなりません。庭の草むしりをしながら通りがかりのご近所さん達とお話しさせていただく内容もこんな感じになります。
「冷房費も暖房費も必要ない、秋は素晴らしい季節でしたねぇ。」
「あっという間に冬になったけどねぇ。」
「おっさん(お坊さん)は頭、寒くないの?」
「丸坊主は自分でできるから経済的なんですよ。」
「大変ねぇ。あとでネギとサトイモ持って来てあげようねぇ。」
「いつもありがとうございます。なまんだぶつ、なまんだぶつ。」
慈光照護の下、宗門宗派のお力添えはもちろん、ご近所の皆様方のご理解とお気遣いをいただいて、都市開教の日々を重ねております。
その日も玄関先で立ち話をしていると、お隣の奥さんが「あら」と声をあげました。
指さす先を目で追うと、季節に似合わないクロアゲハが一羽、ふわりふわりと漂っています。近くのお社の深い森には、まだこんな大きな蝶がいて、それが何かの拍子に迷い出たのかと思われました。
奥さん方とその様子をじっと見守っていると、庭に置いてあるスイレン鉢のふちに力なく羽を休めました。
蝶を数える単位は一匹、一頭などがあるそうですが、その様子があまりに頼りなく寄る辺なく、まさしく風まかせの一羽という風情でした。
しかし羽化したばかりの頃にはきっとつややかで、青にも黒にも輝いていたのであろうその羽は、すすけてぼろぼろになってしまっていました。尾羽も片方が欠けてしまっています。
皆で息をひそめて見ている中、クロアゲハは折からの風にあおられて、「はらはら」という池波正太郎風の擬音がしっくりと感じられる様子で屋根の向こうにその小さな姿を隠したのでした。